増税したことだし、登山でもするかな

Posted by 荒くれサンダー on 2014年4月1日 | Short Link

平成25年度の年度末、年度締めの山行は骨太なバリエーションルートをやりたいと考えていた。

そこで、以前から気になっていたルートが真っ先に思い浮かんだ。
昔から自分の中には「標高1000mにも満たない山は山の名に値しない!」という妙に頑固な決めつけがあり、実際、丹沢でも他の山域でも1000m未満の山に登った事は無かった。

しかし山行を重ねるにつれて、山は標高でその価値を測るべきではないという当たり前の事に気付き、低山であってもハードな歩き応えと重厚な奥深さを併せ持つ魅力的な山に出会いたいと願っていた。

調べてみると、丹沢湖北岸の大杉山を中心に山稜を南北に貫くルートは、丹沢バリエーションルート(以下VR)愛好家にとっては王道の骨太ルートだという。

地図読みが難しく、ヤセ尾根など危険箇所がいくつもあり、道迷い遭難、行方不明事例、滑落死亡事故も起きている。

また西丹沢詳細図には、前半はハードなルート、後半は峻険な登降が続く難路と記され、特に大杉山北山稜ルートの後半は難易度が高い事を示す紫破線の記載で、要求される体力度も高い。

遠くから見ると平坦で長大で穏やかな山稜に見えるのに、各種情報では盛んに注意喚起が為されている。
このギャップがたまらなく魅力的だ。

低山は軟弱だ、という自分の中のくだらない価値基準を完膚無きまでに粉砕してくれそうだし、縦走の最後に石棚山山稜の北側をVR尾根で下降すれば、自分が望む骨太の山行が実現しそうだ。

山と高原地図(昭文社)では、丹沢湖北岸のエリアは一般登山道が無い空白域となっている。
また、山域を俯瞰すると一見、平坦かつ単調に見えるがよく見ると実際にはアップダウンが多く、周辺には南の丹沢湖、西の中川川、東の玄倉川に流れこむ沢が入り組んで複雑な地形である事が読み取れる。

次に詳細図を開き、あらためて地形を眺めながらより細かくルートの確認をする。

そして迎えた土曜日の朝。
小田急線新松田駅で電車から降り立つと、西丹沢自然教室行きのバス停は予想を超える混雑だった。

臨時バスだろうか、始発よりも時間の早いバスには既に多くの人が乗っており、次のバスを待つ団体ハイカーが列を作っている。
さらに周辺には待ち合わせ中らしい団体もいる。

花見が目的の中高年ハイカーが西丹沢にどっと繰り出す季節がやってきたのだ。

雪が残っていた2週間前はバス内は閑散として閑古鳥が鳴いていたから、雪が消えて花が咲く春を待ちわびていた人達が一気に押し寄せたのだろう。

その時、バス会社の人が「あと3人座れますよ。満席にならないと出発できません!」と叫んだので、単独行の自分は列から出て早速バスに乗り込んだ。

西丹沢は相変わらず年齢層が高い。
町内会のバスツアーで山奥の鄙びた湯治場にでも向かっているような気分になる。
これから山に登ろうというのに爆睡して力無く頭を垂れてユラユラと揺れている人や、バスが走行中に急に立ち上がって足元が覚束ないまま運転席に行って札の両替を頼みはじめる人を見ていると、「元気ですかっ!?」と思いっきり叫びたくなる。
しかし山に登る高齢者はスピードこそ遅くても矍鑠としていて、その健脚ぶりにはしばしば驚かされる。
汗を流しながら呼吸も荒く登っている若者に対し、彼らは涼しい顔で実に飄々と歩いている。

さて、玄倉で降りたのは自分と、もう一人の単独男性。彼はそのまま颯爽と出発していった。

今回のルートは笹ヤブの通過がありそうなので、万一のダニの襲撃に備えてレインスーツを履く。
自販機でアクエリアスを調達したり準備運動をしたりしているうちに後続のバスが到着し、単独男性が下りてきた。

登山届を書いている男性を横目に、玄倉林道のほうへ歩き出す。
今日は途中で左折して玄倉川橋を渡る。
車止めのゲートを抜けて丹沢湖北面の林道に入り、やがて大杉山南山稜の尾根取り付き地点に到着。

何気なく振り返ると、先程の単独男性が近づいてくる。
「同じところを行くみたいだね。」と笑顔で声をかけてきた。
年の頃は50代前半だろうか、穏やかで優しそうな男性だ。

急斜面の取り付きを見上げ、「ここを行くのかよぉ、すごいなこれは。」と言いながら彼がザックから取り出したのは蛍光色の赤テープ。

迷いそうな所では常々マーキングしているのだという。テープが付けられる現場を初めて見ながら、内心、ちょっと反発心が湧いた。
この取り付きには既に木の枝に目立つ赤テープが巻いてある。
この先もおそらく赤テープ標旗があるだろう。
なぜわざわざ追加する必要があるのか。

さらにこの先もあちこちにベタベタ貼られたのでは、せっかくのVRの魅力が不粋な赤テープによって損なわれるというものだ。

確 かにマーキングはルートに不安を感じた時の精神的な一助にはなるが、必ずしも信用できる物ではないし、登山者の地図読みの機会やルート選択の能力を奪いか ねず、例えば赤テープを道標と同じように考えて思い込みで突き進んでしまったり、沢を詰め上がってきた沢屋が目印につけたテープで一般ハイカーが沢に誘い こまれたりする危険性もある。

実は自分も蛍光色のテープをザックに忍ばせているが、例えば見通しの効かない未見のVR尾根を下降中に複雑 な支尾根に遭遇した場合やヤブに突入して周囲の状況がわかりにくい場合など、探索に出る際に一時的に使用する目的であり、使用後の回収が前提で用途は緊急 時のみに限っている。幸い、今まで使用した事はない。

さて、自分は後ろを気にする事無くマイペースで登りたいので、男性には先に行っていただいた。

少し時間を置き、ぶらさがっているトラロープを使って尾根に上がる。

いきなりの急登は辛いが、尾根は明瞭だ。

やがてミツマタの群落が現れる。
標高が低く、陽当たりの良い南面という事もあってかどの花も満開状態で、辺りには馥郁たる香りが漂っている。

また、この尾根上は鳥の囀りがとても賑やかで、まさに春爛漫といった趣きだ。湖岸の山は野鳥の生息数が多いのだろうか。まるで野鳥の楽園のようで、爽やかな気分になる。

標高はまだ500mを超えた程度だが西には富士山も望む事が出来て嬉しい。

北に向かって登り続ける急登が終わると、先程の男性(以下、テープ氏)に追いつき、お先に失礼する。

先程から枯れた下草が増えていたが、進路が北東に変わると急に枯れ笹やヤブになり、踏み跡は消える。
シカのフンがあちこちにあり、ダニを恐れながらヤブを通過すると、植林の中のピークが大ノ山(723)だ。
一息入れているとテープ氏が追いついてきたので一言二言交わし、出発。

戸沢ノ頭までは明るく明瞭な尾根が続き、東の展望が良い。
また、遠見山に至る尾根からは視界を遮るものも無く富士山が見える。

やがて遠見山(880)に到着。鹿柵に粗末な山頂標識プレートが掛かっているのみの、静かな杉林だ。

休んでいると、東の方角から人が登ってくる気配がする。方角からみてテープ氏ではなさそうだ。

ちょっと身構えていると、すぐに6人グループが姿を現した。遠見山西尾根から上がってきた中高年男性のグループで、話しぶりや物腰からベテラン揃いとお見受けする。

リーダーと思われる年配の男性が「どこまで行かれるんですか?」と尋ねてきた。柔和な表情だが、何十年もかけて数々の山を踏破してきた歴戦の勇士のような風貌にも見える。

「石棚のヤブ沢ノ頭付近まで上がります」と答えると、「それなら我々と同じところだ」と宣う。

彼らは先に大杉山方面に出立して行った。6人の殿を務めるのは年配のリーダー、最後尾は最も若くて体力もありそうなのでサブリーダーだろうか、きちんと隊列を組んで組織化されたグループだ。

一瞬、自分はここで山を降りようかと思った。
なにしろ山ではあまり人に会いたくない偏屈な性格で、山では人が吐いた空気を吸い込みたくないと思っているのに、出だしから人と一緒になり、まだ序盤だというのにグループにまで会ってしまった。

VRではありながら渋好みの低山派や静山派の間では昔から密かな人気を呼んでいるこのルート、人がいて当然だろうが、これまで誰にも会わないルートを満喫した事も多い自分にとって、今朝は人に遭遇しすぎだ。
しかも彼らとルートが同じという事は、最後まで彼らの後塵を拝する羽目になる可能性がある。

このルートは日を改めて仕切り直すとして、今日は西尾根を中川橋まで下りて、焼津から世附権現山に登るのもいいかもしれない。

そんな事まで真剣に考えたが、人に出会ってしまったから他の山に逃げよう、などというのはまるでクマが考えるような事なので、ここは人間らしく初志貫徹で行こうと決意した。

間もなく、後続のテープ氏が現れた。
二言三言言葉を交わし、先に行っていただいた。

前後を人に挟まれていては落ち着いて歩けない。
抜くのも抜かれるのも好まないから、自分はこの際、最後尾でマイペースで行こう。

テープ氏の姿が見えなくなってから歩き出す。

鬱蒼とした杉林が延々と続いているのが見える。
先行の人々はもう見えない。
植林帯は退屈で陰鬱でつまらない、味気無いなどと悪く言われるが、自分は最近好きになってしまった。

また、植林と言えば斜面というイメージなのだが、ここは長く平坦な場所で、地平線ならぬ杉平線が見えるような珍しい景観だ。

地図によるとこの先1kmにわたって杉林が続く。
ここは鳥の囀りも疎らで、垂直に天を衝く無数の杉の樹間から杉の妖精か神様でも出てきそうな雰囲気だ。
どの木の根元も苔でおおわれており、太い木が林立する辺りでは幽玄さすら感じる。

やがて静寂を破って前方から単独男性が現れた。
60代の方だろうか、地形図を片手に話しかけてきた。覗き込むと御自身で線を引いたルートが書きこまれている。
これが正しい登山者の在り方だ、と尊敬する。

今日は満開のミツマタを楽しみに大杉山の西にある馬草山から登り、遠見山を経て玄倉に下るという。

先程会った登山者グループがカモシカを3頭見かけ、彼も1頭見たそうだ。

自分より先行している6人グループの事を聞くと、大杉山の山頂にはその6人と、彼が馬草山で出会った5人が休んでいるという。

「このルートは人気あるんですかね?」と聞くと、「いやあ、いつもは会ったとしても一人くらいだね。今日は、なんだろうね。」と仰る。

彼に別れを告げ、大杉山の端の展望が開けたところに辿り着いたが、誰もいない。

一息入れていると後ろから登山者が歩いてきた。

また登山者か、なんて日だ!と内心思いながら「こんにちは」と挨拶すると、なんとテープ氏だった。

「テープに釣られて違う方向に行っちゃったよ」と微笑んでいる。
そういえば杉林を歩いている時に、ルートが無いはずの方向から足音が聞こえてちょっと不審に思ったのを思い出した。

自らテープを付けて歩くテープ氏が他人がつけたテープに釣られてあらぬ方向に行ってしまったというのは実に面白かったが、もちろん口には出さなかった。

休憩しながら話をした。
仕事が忙しくてしばらく山から遠ざかっていたが、昨年から再開して最近は専ら西丹沢を歩いているそうだ。表丹沢の喧騒にウンザリしていて大倉には足が向かないという。
年齢を除けば自分と共通する事ばかりで親近感を覚える。

北を見ると目指す石棚山山稜はまだ遥か遠い。
ここまでは序盤で、アップダウンが多くなるこれからが中盤、そして石棚山への急登がハイライトで、VR尾根下降が終盤となる。

ここからはいよいよ、峻険な難路が続くという紫破線ルートだ。気合いを入れ直し、目指す石棚山山稜を仰ぎ見る。(続)

画像は標高500m付近からの富士山とミツマタ、
標高800m付近から東側展望、
大杉山山頂の大杉群。

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